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あんたのために書いてんじゃないんだからねっ

ショートストーリー&雑文。不定期で『タカッラマ・ラジュル』を連載中。

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消えたサンタの謎

「サンタが消えた?」

思った通り、穂積探偵は長い脚を組みながら、興味深そうに目を輝かせた。

ここは穂積探偵事務所。
僕は羽戸というミステリ好きの大学生だ。
二人とも彼女もおらず、今年もさみしいクリスマスになりそうなので、僕はとっておきの謎を披露することにした。

前置きが長くなるが、僕の下宿先のおばさんの友人に、かれこれ40年近く喫茶店を経営しているマダムがいる。
マダムは今も上品な淑女だが、若い頃はそれはそれは美人で、おばさん曰く「女優のカガマリコさんにそっくりだった」らしい。
そのマダムの喫茶店には、今も彼女目当ての常連客が足蹴く通い詰めているという。

西園寺三太さん(68)もその一人だが、その三太さんがここ数日、姿を見せなくなったというのだ。

「つまりですね、サンタが消えたと言ってもサンタクロースではなく……」
「つまり、その三太さんという68歳のご老人が、喫茶店に来なくなったと?」
「正解です」

穂積探偵はたちまち興味を失ったようだ。
もちろんこれだけでは面白くもなんともない。
この謎にはまだ続きがあるのだ。

「それが昨日、三太さんからマダムのところにあるものが送られてきたというんです」
「あるもの?脅迫状か何かかい?」
「いえ、血統書です」
「血統書?」

言い忘れていたが、マダムは最近仔猫を飼い始めたのだ。
芥川龍之介のファンだというマダムは猫にリュウと名付け、たいそう可愛がっているという。
その猫宛に血統書が送られてきたのである。

「三太氏はペットショップでも経営しているの?」
「いえ、定年退職された公務員ですけど」
「その猫は血統書付きの猫なの?」
「さあ。その点についてはおばさんから何も聞いていませんから」

そもそもマダムが猫を飼っているという話自体、内緒だったのだ。
マダムの借りている住居兼テナントの大家さんが猫アレルギーで、「しばらくは黙っていてほしい」と、おばさんも口止めされていたくらいだったから。

「ではなぜ三太さんは猫の事を知っていたのか?
なぜ血統書を送ってきたのか?
そもそも三太さんが姿を見せなくなったのはどうしてなのか?マダム目当てに毎日のように通っていたというのに。
ね?不可解な事件でしょ?」

僕はちょっと自慢げに鼻を鳴らした。
穂積探偵が眉間にしわを寄せ、何かを考え込み始めたからだ。

「待ってくれ、羽戸くん。話を整理しよう。
マダムが猫を拾った→三太氏が店に来なくなった→マダムの猫宛に血統書が送られてきた→君がおばさんから相談を受けた。
時系列はこれで合ってるかい?」
「合ってます」

「猫の話を知っていたというのはそれほど不思議な話ではないね。
ご町内ならいくら内緒にしてもどこからか噂が漏れ聞こえるものだ。
だが、猫に血統書を送ってくる理由は……わからないな」
「おかしいでしょ?猫のリュウ宛に白い手袋と一緒に血統書を送ってくるなんて」
「白い手袋?」

穂積探偵は驚いたように僕の顔を見た。

「マダムは本当に『血統書』と言ったのかい?聞き違いではなく?」

改めてそう聞かれると自信はない。
何せマダムから相談を受けた下宿のおばさんからの又聞きなのだから。

「羽戸くん、血統書ではなく、決闘状じゃないのかい?」
「決闘状?」
「その昔、決闘を申し込む際に相手に白手袋を投げる、という作法があったんだ」

穂積探偵は「その話には二つの勘違いがあったのではないか」と言った。
一つ目は三太さんがリュウの事を「人間だと思った」こと。

何らかのルートでリュウの話を耳にした三太さんが、マダムにリュウという恋人が出来たと勘違いし、喫茶店にも来なくなり、あげく決闘を申し込んだのではないかと。

二つ目は言うまでもなく、僕が(あるいは、おばさんが)『決闘状』を『血統書』と聞き違えたこと。
そこは責めないでほしい。
だって猫に決闘を申し込むなんて思わないじゃないか。

穂積探偵は呆れたように大きな溜息をついた。

「『いろいろ行き違いがあったようだ』と、下宿のおばさんに教えてあげるといい。
あとはマダムと三太氏でよく話し合ってもらいなさい」

「すみません。ミステリでもなんでもなかったですね」
「そうだね。おまけにクリスマスとも関係がなかったようだね」

恨み言も忘れなかった。
消えたサンタの謎への期待がよほど大きかったのかもしれない。

そこで僕はもう一つのクリスマスエピソードを披露することにした。

「下宿のおばさんの娘さんがフランス人の男性と結婚して、女の子が産まれたのでクリステルと名付けたそうです」
「ふうん」
「クリステルだから愛称はクリスちゃん。
クリスちゃん = クリスチャン。
ねっ、少しはクリスマスっぽいでしょ?」

さらに大きな溜息と共に、穂積探偵が椅子から立ち上がる音が聞こえた……。

どちらさまも、メリークリスマス!

  

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