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あんたのために書いてんじゃないんだからねっ

ショートストーリー&雑文。不定期で『タカッラマ・ラジュル』を連載中。

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幻想恋話~天使の矢ー前篇ー

天界には様々な役割を担った天使たちが働いています。

恋の矢を放つクピドー族(愛の天使)たちもその一員。
彼らは人間の子孫繁栄のカギを握る重要な役割を担っています。
金の矢が刺さった男女は恋に落ち、鋼の矢が刺さった恋人同士は破局へ。

若い新米のクピドーは、自分の射た矢で人間たちが恋に落ちたり破局したりすることが楽しくてたまりませんでした。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な?
あの若い音楽家とちょっと年取ったダンサーなんてどうだろう?
それともいつも愛想のよいパン屋の見習いと気取った金持ちのお嬢さん?
仲良しの旅人カップルを別れさせちゃおうかな?」

「おい!新米!」
「て、天使長様!」

新米クピドーは驚いて持っていた矢をばら撒いて頭を抱え込みました。
天使長様には、ある国の王妃と新聞記者のカップルを作った件で、先日叱られたばかりです。
けれど今回の声の主は、天使長様そっくりに声をまねた、悪戯好きの先輩クピドーでした。

「なんだ先輩か。脅かさないで下さいよ!びっくりして矢が……」
「すまん、すまん。そんなに驚くとは思わなかったんだ」

謝りながら散らばった矢を拾い集めていた先輩クピドーは、「あれ?」と変な声を挙げました。

「足りない。矢が一本ずつ、足りないぞ」

金の矢と鋼の矢、それらは必ず対になっているはずです。
なのに拾い集めたもののうち、金の矢が一本、鋼の矢が一本、対にならずに余ってしまったのです。

「おい、新米、お前の尻に……矢が」
「ひゃあ!」

新米クピドーの尻には金の矢が一本、まるで尻尾のように刺さっているではありませんか。

「もう一本の矢は?」
「まさか、下界に?」

新米クピドーと先輩クピドーは焦って下界を見下ろしました。

「ああ!」

最悪の事態に、二人は目を覆いました。

天使が無防備に恋に落ちたとしたら、大変なことになってしまいます。
まして、その相手が人間だなんてことになれば……。
さらに金の矢と鋼の矢の片割れなんて、これは人間界で言うところの「片思い」というパターンではないですか。

こんなことがバレたら二人は天使長様に大目玉をくらったうえ、天界を追われホームレス天使となってしまうかもしれません。
新米&先輩クピドーは早急に鋼の矢を回収すべく下界へと向かいました。



人間界に降り立った新米クピドーは、不満げにふくれっ面をしました。

「先輩。なんですか、このセンスのない装束は?」
「人間の女の格好だ。相手は人間の男だったから、その方が近づきやすいだろう」

天使に性別はないのですが、それらしく見えるよう、新米クピドーは人間の女が着るような衣服を着せられたのでした。
そういう先輩はしゃれたハンチングを被っています。

「ともかくこの辺りだったと思う。ちょっと探索してみよう」

クピドーたちはうらぶれた裏通りを歩き始めました。
そこは天界から見た時にはずいぶん栄えた街に見えましたが、実際に降りてみるとそういう場所ばかりではないようでした。

裏道に入ると疲れたような顔の老人や、ひもじそうな子供たちが、道のあちこちに無気力に座り込んでいます。
人相の悪そうな男たちも何人かおり、人間のふりをしているクピドーたちに、みな無関心のように見えました。

とにかく鋼の矢の男を探さなくては、と角をまがった時、二人は数人の男たちに取り囲まれてしまいました。
どうたやら無関心を装っていただけで、町の人たちは最初から二人に目を付けていたようです。

「おまえら、さっきから何をコソコソ探っている?」
「ずいぶんいい身なりをしているな。モンティ家の者か?」

「モン……テ?」
「いえ、あの、僕たち仕事を探していたんですよ。
少し前までモンティ家で働いていたんですが、先日クビに……。ああ、うちには病気の両親と小さい弟たちもいるというのに!」

先輩のしらじらしい嘘に、なぜか男たちは心を動かされたようでした。みな一様に気の毒そうな表情に変わり、中には肩を震わせる者までいます。
どうやらモンティ家というのは相当評判が悪いようでした。

その時、一人だけ表情を変えずに二人を見ていた髭面の男が口を開きました。

「とりあえずリーダーのところへ連れて行け」

◇◇◇

では今宵はこのあたりで。続きはまた明日。

【目次】

  

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