あんたのために書いてんじゃないんだからねっ
ショートストーリー&雑文。不定期で『タカッラマ・ラジュル』を連載中。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
レッド・クリスマス
大ぶりなモミの木が不規則な光を放っていた。
毎年この時期になると商店街を飾るクリスマスツリーだ。
日の落ちたこの時間、モミの木は赤色や金色の光を振りまきながら寒そうに体を揺らす。
モミの木の側ではミニスカサンタが、ヒイラギとチキンが描かれた赤いチラシを熱心に配っていた。
「クリスマスにチキンはいかがですか?」
差し出されたチラシを、ニット帽をかぶった中年男が不快そうに振り払った。
――ひどいなあ。チラシくらい受け取ってやれば良いのに。
独りごちたのは、古びた小さな赤いポストだった。
毎年この時期になると商店街を飾るクリスマスツリーだ。
日の落ちたこの時間、モミの木は赤色や金色の光を振りまきながら寒そうに体を揺らす。
モミの木の側ではミニスカサンタが、ヒイラギとチキンが描かれた赤いチラシを熱心に配っていた。
「クリスマスにチキンはいかがですか?」
差し出されたチラシを、ニット帽をかぶった中年男が不快そうに振り払った。
――ひどいなあ。チラシくらい受け取ってやれば良いのに。
独りごちたのは、古びた小さな赤いポストだった。
そのポストは商店街の片隅に忘れられたようにポツンと佇んでいた。
商店街の入り口にはもう一つ、新しくて大きなポストが設置されていた。町の人は皆そこを利用するので、小さなポストは見向きもされなかった。
仕方ない。新しいポストには『年賀状はお早めに!』と書かれた美しいポスターまで貼られているのだ。
古いポストはその華々しさを少し羨ましく思うものの、「自分は長年この場所で町の人々を見守ってきたのだ」という自負を持っていた。
風に乗って星の形をした風船が流れてきた。フワフワと揺れながらポストの前に落下する。
風船を追ってきたのか、人の流れの中から子供がひょいと顔を出した。赤いフードをかぶった小さな男の子だ。男の子はおぼつかない足取りでポストの前までやってくると、満足そうに風船を拾い上げた。
――おやおや、こんな時間に子供が一人でいるとは。
「ぼうや、どうしたんだ?」
そう話しかけたのは、もちろんポストではない。
子供の後ろに立っていた黒革のコートを着た大柄な男だ。
「ママ?」男に問いかけられ、子供はキョロキョロと辺りを見回した。
「ママとはぐれたのかい?よし俺が一緒に探してやろう」
男は太い腕で軽々と子供を抱き上げる。突然の事態に、子供は風船を握ったままポカンと男の顔を見上げた。
一連の行為を、ポストは何か不吉な予兆のように感じた。
男は凶悪な顔つきをしている。人を顔で判断してはいけないが、この男からは何か犯罪の匂いがするのだ。
危険だ。何かが起こる!ポストは長年の経験からそう確信した。
――逃げろ、ぼうや!誰か、誰か、この子を助けてやってくれ!
ポストの祈りが通じたのか、ほどなくして制服の警官が駆け寄ってくるのが見えた。この商店街で時折見かける若い警官だ。息を切らせた警官が男の肩を叩く。
「警部!こちらにいらっしゃいましたか!この子はいったい?」
「ああ、迷子らしいんだ。それより君は?」
淡々と問う男に対して、制服警官はいくぶん興奮気味に答えた。
「警部を探していました。警戒中の連続放火犯が現れたんです!今度は商店街の入り口辺りが狙われました。まだ近くに犯人がいるはずだと不審者の捜索をしている所です。警部にもご協力願えますか?」
「わかった、すぐ行く。その代り、君はこの子の親を探してやってくれないか?迷子らしいんだ」
「諒解しました」
「気を付けてやってくれよ」
男は子供の頭をポンポンと叩くと、警官がやって来た方向に駈け出して行った。
なんだ。黒革の男も警察官だったのか。道理で犯罪の匂いがするはずだ。
ポストはホッと息をついた。
このところ商店街では不審火が続いていた。道行く人の噂によると「赤いもの」が狙われるというが……。
そういえばあの男の子も赤いフードをかぶっていた。黒革の男は赤いフードの子供を心配して後を追ってきたのかもしれないな。
ふと、ポストは目の前に広がる光景に違和感を覚えた。
モミの木。ミニスカサンタ。ニット帽の中年男。
さっきと何ら変わりない光景のはずだが……。
ニット帽の中年男だ!
先ほどあれほど邪険にしたくせに、まだミニスカサンタの側にいる。チラシを受け取るわけでもなく、ポケットに手を入れたまま何かを見つめていた。その視線の先にはミニスカサンタの足下に積まれた赤いチラシの山があった。
突然、男はミニスカサンタの足下にしゃがみ込んだ。
その手にはいつの間にかペットボトルとライターが握られている。男がペットボトルを傾け、火のついたライターを放り投げると、赤い光が閃く。
山積みにされたチラシは見る見るうちに炎をまとって舞い上がった。
――火をつけたぞ!放火犯だ!このニット帽が放火犯だったんだ!
瞬く間に炎は勢いを増し、今にもミニスカサンタのスカートを嘗め尽くそうとしている。
――誰か!誰か、ミニスカサンタを助けてやってくれ!
「キャーーー!」
怒号と叫び声。近づいてくるサイレンの音。
商店街はたちまちのうちに喧騒に包まれた。
ポストの祈りが通じたのか、ミニスカサンタの叫びが届いたのか、周囲の人々協力でまもなく炎は消し止められた。
けが人もなく、駆けつけた警官によって犯人も取り押さえられ、事件は何事もなく終結を迎えたのだった。
町は再び普段通りの穏やかさを取り戻した。
変わったことと言えば、古びたポストに『年賀状はお早めに!』というポスターが貼られたことくらいだ。
商店街の入り口のポストは赤いものを嫌う放火犯に狙われたらしく、急遽こちらのポストにポスターが貼り直されたのだ。
そのポスターは大きすぎ、小さなポストにはやや不似合だったが。
母親に手を引かれた少女が、そのポストに年賀状を投函する。
古びたポストは少し照れたように、少し誇らしげに、今日も町を見守っていた。
~おわり~
商店街の入り口にはもう一つ、新しくて大きなポストが設置されていた。町の人は皆そこを利用するので、小さなポストは見向きもされなかった。
仕方ない。新しいポストには『年賀状はお早めに!』と書かれた美しいポスターまで貼られているのだ。
古いポストはその華々しさを少し羨ましく思うものの、「自分は長年この場所で町の人々を見守ってきたのだ」という自負を持っていた。
風に乗って星の形をした風船が流れてきた。フワフワと揺れながらポストの前に落下する。
風船を追ってきたのか、人の流れの中から子供がひょいと顔を出した。赤いフードをかぶった小さな男の子だ。男の子はおぼつかない足取りでポストの前までやってくると、満足そうに風船を拾い上げた。
――おやおや、こんな時間に子供が一人でいるとは。
「ぼうや、どうしたんだ?」
そう話しかけたのは、もちろんポストではない。
子供の後ろに立っていた黒革のコートを着た大柄な男だ。
「ママ?」男に問いかけられ、子供はキョロキョロと辺りを見回した。
「ママとはぐれたのかい?よし俺が一緒に探してやろう」
男は太い腕で軽々と子供を抱き上げる。突然の事態に、子供は風船を握ったままポカンと男の顔を見上げた。
一連の行為を、ポストは何か不吉な予兆のように感じた。
男は凶悪な顔つきをしている。人を顔で判断してはいけないが、この男からは何か犯罪の匂いがするのだ。
危険だ。何かが起こる!ポストは長年の経験からそう確信した。
――逃げろ、ぼうや!誰か、誰か、この子を助けてやってくれ!
ポストの祈りが通じたのか、ほどなくして制服の警官が駆け寄ってくるのが見えた。この商店街で時折見かける若い警官だ。息を切らせた警官が男の肩を叩く。
「警部!こちらにいらっしゃいましたか!この子はいったい?」
「ああ、迷子らしいんだ。それより君は?」
淡々と問う男に対して、制服警官はいくぶん興奮気味に答えた。
「警部を探していました。警戒中の連続放火犯が現れたんです!今度は商店街の入り口辺りが狙われました。まだ近くに犯人がいるはずだと不審者の捜索をしている所です。警部にもご協力願えますか?」
「わかった、すぐ行く。その代り、君はこの子の親を探してやってくれないか?迷子らしいんだ」
「諒解しました」
「気を付けてやってくれよ」
男は子供の頭をポンポンと叩くと、警官がやって来た方向に駈け出して行った。
なんだ。黒革の男も警察官だったのか。道理で犯罪の匂いがするはずだ。
ポストはホッと息をついた。
このところ商店街では不審火が続いていた。道行く人の噂によると「赤いもの」が狙われるというが……。
そういえばあの男の子も赤いフードをかぶっていた。黒革の男は赤いフードの子供を心配して後を追ってきたのかもしれないな。
ふと、ポストは目の前に広がる光景に違和感を覚えた。
モミの木。ミニスカサンタ。ニット帽の中年男。
さっきと何ら変わりない光景のはずだが……。
ニット帽の中年男だ!
先ほどあれほど邪険にしたくせに、まだミニスカサンタの側にいる。チラシを受け取るわけでもなく、ポケットに手を入れたまま何かを見つめていた。その視線の先にはミニスカサンタの足下に積まれた赤いチラシの山があった。
突然、男はミニスカサンタの足下にしゃがみ込んだ。
その手にはいつの間にかペットボトルとライターが握られている。男がペットボトルを傾け、火のついたライターを放り投げると、赤い光が閃く。
山積みにされたチラシは見る見るうちに炎をまとって舞い上がった。
――火をつけたぞ!放火犯だ!このニット帽が放火犯だったんだ!
瞬く間に炎は勢いを増し、今にもミニスカサンタのスカートを嘗め尽くそうとしている。
――誰か!誰か、ミニスカサンタを助けてやってくれ!
「キャーーー!」
怒号と叫び声。近づいてくるサイレンの音。
商店街はたちまちのうちに喧騒に包まれた。
ポストの祈りが通じたのか、ミニスカサンタの叫びが届いたのか、周囲の人々協力でまもなく炎は消し止められた。
けが人もなく、駆けつけた警官によって犯人も取り押さえられ、事件は何事もなく終結を迎えたのだった。
町は再び普段通りの穏やかさを取り戻した。
変わったことと言えば、古びたポストに『年賀状はお早めに!』というポスターが貼られたことくらいだ。
商店街の入り口のポストは赤いものを嫌う放火犯に狙われたらしく、急遽こちらのポストにポスターが貼り直されたのだ。
そのポスターは大きすぎ、小さなポストにはやや不似合だったが。
母親に手を引かれた少女が、そのポストに年賀状を投函する。
古びたポストは少し照れたように、少し誇らしげに、今日も町を見守っていた。
~おわり~
PR
COMMENT
No Title
久しぶりなのにちょっと長めで嬉しかったです。
赤にちなんでクリスマスで賑わう街並みを描き出しましたね。
特に古いポストは印象深く、余韻が残っていい感じですね!
しかしミニスカサンタと聞いただけで鼻の下が3ミリ伸びて
冷静な推理力がダウンしてしまうのはなぜでしょう(笑)
銀河径一郎さん
久々の更新はやはり照れますね。
>特に古いポストは印象深く、余韻が残っていい感じですね!
最初は古い地蔵と迷ったのですが、年末らしくポストにして、全体を赤でまとめてみました。
地蔵だったらまた展開が変わっていたと思います。
>しかしミニスカサンタと聞いただけで鼻の下が3ミリ伸びて
>冷静な推理力がダウンしてしまうのはなぜでしょう(笑)
作戦成功です(笑)
最近はコスプレも珍しくなくなってきて、ミニスカサンタくらいなら普通に町中で見かけますよね。
それでもこの間コンビニのレジにトナカイ姿の女の子がいたのにはびっくりしました(笑)